Underwater Military Museum「水中軍事博物館」
鋼鉄の軍団、紅海に沈む。アカバ「水中軍事博物館」——水深28mに現れた静寂の最前線
ヨルダンの最南端、アカバ。この青く澄んだ海の下には、世界中のダイバーが言葉を失う異様な光景が広がっている。2019年、ヨルダン軍の全面協力によって誕生した「水中軍事博物館(Underwater Military Museum)」は、もはやダイビングスポットというより、「海底にパイルアップされた終末後の戦場」。
19台以上の退役兵器が、砂漠の砂ではなく海底の砂地に「戦闘陣形」のまま沈んでいる。
歴史と背景:国王が仕掛けた「退役兵器の最終任務」
このプロジェクトの主導者は自身も熟練のダイバーであり、元特殊部隊司令官でもあるヨルダンのアブドゥッラー2世国王だ。
本物の「戦力」を沈めるという狂気
ここに沈んでいるのはレプリカではない。つい最近までヨルダン王立軍の最前線で稼働していた「本物」である。
- 戦略的配置: バラバラに捨てられた沈船とは異なり、すべてが「戦術的戦闘陣形(Tactical Battle Formation)」に基づいて配置されている。つまり、潜降した瞬間に「進軍中の戦車部隊」のド真ん中に放り出される感覚を味わえる。
- 環境への転換: 燃料や油を完全に抜き取り、砲塔やハッチを固定。数十年後には「鋼鉄のサンゴ礁」へと変貌させるという軍事力から自然保護への大胆なパラダイムシフトが背景にある。
構造と深度:水深ごとに深まる「戦場のリアリティ」
この博物館の凄みは、一つのポイントで「体験のグラデーション」があることだ。
- 水深15m〜20m:重戦車部隊の防衛線
- 主力戦車が横一列に並び、ダイバーを迎え撃つような威圧感がある。オープンウォーター保持者でも、この「鉄の壁」の間を泳ぎ抜けるスリルを味わえる。
- 水深25m〜28m:航空部隊と防空システム
- ヘリコプターや対空砲が配置されたディープエリア。光が届きにくくなるこの深度では、兵器のシルエットがより不気味により巨大に浮かび上がる。
見どころ:潜った者だけが圧倒される「鉄と水の対峙」
ネット上の写真では伝わらない、現地で肌寒さを感じるほどのリアルなポイントを伝えたい。
1. 狙いを定める「対空砲(Anti-Aircraft Guns)」の銃口
海底で上を見上げてみると、巨大な2連装の対空砲が水面を射抜くように配置されている。本来、空飛ぶ敵を撃ち落とすための凶器が、水面の光を静かに見上げている。その矛盾した光景には、ゾッとするような美しさがある。
2. 「AH-1 コブラ」攻撃ヘリのコックピット
- 現地情報: コックピットの計器類や、複雑なスイッチ類が今も生々しく残っている。ライトを当てると、金属の質感が青い世界にギラリと浮かび上がり、かつての戦士の鼓動が聞こえてくるような錯覚に陥る。
3. 主力戦車「チーフテン」の無機質な砲身
イギリス製の重戦車「チーフテン(Chieftain)」、ヨルダン軍での名称「ハリド(Khalid)」。水中を探索していると、突如として現れるその巨大な120mm長砲身の威容に圧倒される。
- 現地情報:砂漠の巨獣から「生命の揺りかご」へ
かつて砂漠を駆け抜けた55トンの鉄の巨獣は現在、潮の流れに洗われ無機質だった装甲にはサンゴの芽が吹き始めている。 - 見どころ:砲口に宿る命
かつて激しく火を吹いた砲口は、今や小さな魚たちの格好の隠れ家となっている。この戦車は1980年代から2000年までヨルダン軍で現役として活躍していた歴史を持つ。兵器としての役割を終えて自然の一部へと侵食されていくその姿は、「破壊から生命への転換」を最もダイレクトに感じられるだろう。
4. 軍用クレーンと救急車の「後方支援」
- 現地情報: 救急車の四角いボディは水中で見ると「海底の棺」のような異様な存在感を放っている。戦車のような派手さはないが、軍事基地としての「生活感」がこの場所のリアリティを一層引き立てている。
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